天然ガスから水素製造のコスト削減と効率向上に向けた新技術の紹介

天然ガスを利用した水素製造には、さまざまなコスト要因と技術的な課題があります。この記事では、新技術の導入によるコスト削減と効率向上の可能性を探り、日本市場での競争力を高めるための最新の取り組みについて解説します。

水素製造のコスト構成と削減ポイント

製造コストの内訳

天然ガスから水素を製造する際には、以下のようなコスト要素が関係します。

  • 原料コスト:天然ガスの価格が水素製造コストの大きな部分を占めます。天然ガスの価格変動により、製造コストも大きく左右されます。
  • エネルギー消費:水素製造には多くのエネルギーが必要で、特にスチームメタン改質(SMR)やオートサーマル改質(ATR)などのプロセスでは燃料コストが発生します。
  • CO₂管理:ブルー水素製造には、生成されたCO₂の回収・貯留(CCS)や、再利用(CCU)の設備が必要で、これが追加コストとなります。

ポイント:製造コスト削減の鍵 製造コストを削減するためには、効率の高い技術の導入や、新しい設備投資が鍵となります。エネルギー効率の向上や資本コストの最適化が、コスト削減と収益向上の重要なポイントです。

水素製造プロセスの新技術

Auto-Thermal Reforming(ATR)と高効率SMR技術

**Auto-Thermal Reforming(ATR)**は、酸素と水蒸気を供給して天然ガスと部分酸化反応を起こしながら水素を生成する技術です。このプロセスは自己持続的にエネルギーを供給するため、外部エネルギーの投入が少なく済みます。ATRはCO₂の分離が容易で、ブルー水素生産に適しており、CCSやCCUと組み合わせることで環境負荷を低減できます。

ATR技術の実用化見通し ATR技術は、既に一部の先進的なプラントで実用化されていますが、さらなる普及にはコスト削減が課題となります。高温での反応を効率的に制御するための触媒や耐熱材料の改良が進んでおり、これにより設置コストの削減が期待されます。今後5〜10年以内に、CCUやCCSと一体化したブルー水素製造の標準技術として確立される見通しです。

高効率SMR技術は、従来のSMRプロセスに排熱回収システムを導入することで、エネルギー効率を向上させたものです。高温の蒸気を利用して天然ガスから水素を抽出する従来のSMRに比べ、エネルギーコストを大幅に削減でき、生成されるCO₂も抑制できます。

高効率SMRの実用化見通し 高効率SMRは、既存のSMRプラントに排熱回収システムを追加することで比較的容易に導入できるため、実用化が進んでいます。さらに、最新の触媒技術によって反応効率が向上し、エネルギー消費を抑える設計が進化しています。将来的には、特に中規模以下のプラントでの利用が増えると予想され、最適化された排熱利用により、全体のエネルギーコストを20〜30%削減する可能性が見込まれています。

ブルー水素製造におけるCCSからCCUへの転換

水素製造時に発生するCO₂を回収し、貯留する**CCS(カーボンキャプチャ・ストレージ)から、CO₂を再利用するCCU(カーボンキャプチャ・ユーティライゼーション)**への転換が進んでいます。例えば、回収したCO₂を炭酸飲料や農業用炭酸ガス、建材などに利用することで、貯留にかかるコストを削減し、収益化が可能になります。これにより、全体の製造コストを下げると同時に、プロセス全体の環境負荷も軽減されます。

CCUの実用化見通し CCU技術は、CO₂を貯留するだけでなく、製品として販売できる点で経済性に優れ、注目を集めています。特に建設業界や農業分野での利用が進んでおり、今後3〜5年以内に主要なブルー水素プロジェクトで導入が進むと予想されます。また、CO₂の活用が一部のバイオプラスチックや炭酸化製品にまで広がりつつあり、長期的な視点で見ると、CCU市場は拡大が見込まれます。技術的課題としては、CO₂の分離・純化コストが依然として高いため、これを低減する技術が求められています。

低温・低圧での新触媒技術

近年の触媒技術の進展により、低温・低圧条件でも効率的に水素を生成できるようになっています。ルテニウム系触媒などの新しい触媒を使用することで、従来の高温・高圧条件に比べエネルギー消費を抑えられます。これにより、設備の耐久性が向上し、メンテナンスコストの削減も期待できます。また、省エネ化による運用コスト削減も実現可能です。

新触媒技術の実用化見通し 新触媒技術は研究開発が活発で、特に低温・低圧での効率的な反応が求められています。ルテニウム系触媒やその他の貴金属ベースの触媒が期待されていますが、触媒材料のコストが課題です。実用化は既に一部のパイロットプラントで進行中であり、5〜10年以内に商業的に利用できる可能性があります。これにより、エネルギー消費が20%以上削減されることが期待され、製造コストの低減に大きく貢献する見込みです。

水素の輸送とコスト効率化

水素およびLNGの製造・輸送コスト比較

以下の表は、液化水素(LH₂)、アンモニアキャリア、ATRによるブルー水素、そしてLNGの各方法での製造から再ガス化までのコストを比較したものです。

項目LNG(現状)液化水素(LH₂)アンモニアキャリアによる水素ATRによるブルー水素(オーストラリア)
製造コスト約6.0〜8.0 USD/MMBtu約8.34 USD/MMBtu約12.0〜20.0 USD/MMBtu約8.34 USD/MMBtu
液化/変換コスト約1.5〜3.0 USD/MMBtu約8.8〜13.3 USD/MMBtu約11.5〜15.5 USD/MMBtu
輸送コスト約1.0〜1.5 USD/MMBtu約8.5〜12.0 USD/MMBtu約5.5〜7.5 USD/MMBtu約10 USD/MMBtu(液化水素輸送時)
再ガス化/クラッキングコスト約0.8〜1.5 USD/MMBtu約2.7〜4.4 USD/MMBtu約17.7〜22.1 USD/MMBtu約3.5 USD/MMBtu(再ガス化時)
合計コスト約9.3〜14.0 USD/MMBtu約32.84 USD/MMBtu約46.7〜65.1 USD/MMBtu約32.84 USD/MMBtu(輸送・再ガス化含む)

コスト分析ポイント LNGは既存のインフラが整備されているため、製造から輸送、再ガス化までのコストが比較的低く抑えられています。一方、液化水素やアンモニアキャリアは製造や再ガス化に高コストがかかるため、コスト競争力の面で課題があります。

日本市場における水素のコスト競争力

液化・輸送・再ガス化コストを含む日本での販売価格

オーストラリアなどから日本に水素を輸出する場合、製造・液化・輸送・再ガス化の全コストを含めた日本での販売価格が重要です。液化コスト、輸送コスト、再ガス化コストが加わり、日本での販売価格は約32.84 USD/MMBtuと試算されています。これに対し、日本市場での水素価格(約30〜40 USD/MMBtu)との競争力を持つためには、さらなるコスト削減が必要です。

ポイント:競争力向上のための課題 日本市場での競争力を高めるためには、低コストの液化技術や再ガス化コストの削減が不可欠です。技術革新により、輸送と再ガス化コストが低減されることで、日本市場への安定供給が可能になります。

結論

天然ガス由来の水素供給をより安価で効率的にするための展望

天然ガスからの水素供給において、製造技術と輸送コストの効率化が求められます。ATRや高効率SMR、CCUなどの新技術を導入することで、製造コストが削減され、エネルギー効率が向上します。また、低コストの液化技術とアンモニアキャリアの活用によって、長距離輸送コストの削減も期待されます。これらの技術革新により、日本市場での水素供給が経済的かつ持続可能なものとなり、将来的なエネルギーの選択肢として重要な役割を果たすことが期待されます。

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