第III部 用語集
本用語集は、プロジェクトファイナンスにおける投資評価と配当決定に関連する専門用語を、資本家の視点から解説する。各用語は、定義・説明(200字程度)と分類(投資評価、配当・CF、契約・組織、融資条件、リスク・準備金)により整理されている。
| 用語(英語) | 用語(日本語) | 定義・説明 | 分類 |
| ADB | アジア開発銀行 | Asian Development Bankの略。アジア太平洋地域の経済発展を支援する国際開発金融機関(MDB)。プロジェクトファイナンスにおいて、政治リスク保証、長期融資(20-25年)、現地通貨建て融資を提供する。ADB関与により、商業銀行の融資条件が緩和され、融資比率が5-10%向上し、金利スプレッドが0.5-1.0%低下する効果がある。 | 契約・組織 |
| AfDB | アフリカ開発銀行 | African Development Bankの略。アフリカ地域の経済発展を支援する国際開発金融機関(MDB)。プロジェクトファイナンスにおいて、政治リスク保証、長期融資、技術支援を提供する。AfDB関与により、サブサハラアフリカ等の高リスク地域でも融資実行が可能となる。 | 契約・組織 |
| Arbitration Clause | 国際仲裁条項 | 契約紛争を国際仲裁機関(ICC、LCIA、SIAC等)で解決する旨を定めた条項。新興国プロジェクトでは、現地裁判所の独立性や専門性に懸念があるため、仲裁地をロンドン、シンガポール等の中立地とし、準拠法を英国法またはニューヨーク州法とする。仲裁判断はNew York Convention(1958年)により160カ国以上で執行可能。 | 契約・組織 |
| Asset Handover | 資産譲渡 | コンセッション満了時に、プロジェクト資産(道路、発電所等)を政府または発注者へ譲渡すること。有料道路や鉄道等のインフラプロジェクトでは、無償譲渡が一般的であり、この場合Project IRRの計算ではSPVの清算価値をゼロと仮定する(Definition 1)。資産譲渡価格がProject IRRに3%以上の差異をもたらす場合がある。 | 契約・組織 |
| Assumptions | 前提条件シート | 財務モデルにおいて、需要予測、価格、OPEX、金利、為替レート等のすべての入力値を集約したワークシート。Base Case、Conservative Case(P90)、Optimistic Case(P10)の3シナリオで設定される。前提条件の変更は全シートに自動反映されるため、感度分析の基礎となる。貸付人はConservative Caseで最低DSCR基準を満たすことを融資条件とする。 | 配当・CF |
| Base Case | ベースケース | 財務モデルにおいて、最も蓋然性の高い前提条件を用いたシナリオ。需要予測ではP50(50%確率で達成)、建設費・OPEXは標準見積、金利は契約時点の市場水準を使用する。Financial Close時点で全当事者が合意したBase Caseモデルが、以後の契約管理の基準となる。貸付人はBase Caseからの乖離を四半期ごとに監視し、covenant違反の有無を判定する。 | 投資評価 |
| Bespoke Contract | ベスポーク契約 | 標準契約書(FIDIC等)を使用せず、プロジェクト固有の条件に合わせてゼロから作成される個別カスタマイズ契約。大型商業プロジェクト(石油・ガス、LNG、大型発電所等)では、投資家が弁護士に依頼してBespoke契約を作成し、遅延損害金、設計変更手続き、不可抗力の定義等を自社に有利に設定する。FIDIC契約はリスク配分がバランス型であるのに対し、Bespoke契約は投資家有利である。 | 契約・組織 |
| BOP | Balance of Plant | 太陽光発電プロジェクトにおいて、プラントオーナー(事業者)が主要設備(パネル、インバーター等)を自ら調達し、詳細設計・施工・試運転を別途契約する方式。EPC一括契約より投資コストが低い傾向があるが、事業者の管理負担が増加する。日本の太陽光プロジェクトでは、EPC一括契約が投資額の中央値で高い傾向がある。 | 契約・組織 |
| BS | 貸借対照表 | Balance Sheetの略。各期末の資産・負債・純資産を示す財務諸表。財務モデルでは、現金残高(Restricted Cash、DSRA等の内訳)と債務残高(Senior Debt、Subordinated Debt等の内訳)を追跡する。BSとP/L(損益計算書)はMandatory(必須)であり、CF(キャッシュフロー計算書)は参考扱いとなる。貸付人は、DSCRが基準を満たしていてもBSの異常(現金過剰積上、債務減少ペース遅延)を検知する。 | 配当・CF |
| CAFDS | 債務返済後キャッシュフロー | Cash Available for Debt Serviceの略。営業CFと投資CFの合計から、運転資金増加と税金を控除した金額。債務返済の原資となる現金創出力を示す。計算式:CAFDS = EBITDA – 運転資金増加 – 税金。または、CAFDS = 営業CF + 投資CF – 税金。DSCRの分子として使用され、年間CAFDSが年間元利金支払を上回る水準(DSCR>1.20)が融資条件となる。定常運転期では、CAFDS ≈ EBITDAが成立する(CapEx ≈ 減価償却費、ΔNWC ≈ 0の前提)。 | 配当・CF |
| CAPEX | 資本的支出 | Capital Expenditureの略。プロジェクトの初期投資額。建設費、設備費、開発費(用地取得、設計、許認可)、系統連系費、予備費を含む。太陽光発電では、日本がCAPEX 1,300-1,500ドル/kW、海外(中東・米国・豪州)が500-800ドル/kWと約2倍の差がある。差異の主要因は、用地・造成費(日本12%、海外1-2%)とプロジェクト規模(日本10-20MW、海外100MW以上)である。 | 投資評価 |
| Cash Sweep | キャッシュスイープ | DSCRが一定水準(通常1.25)を下回った場合、配当予定額の一部または全部を債務の繰上返済に強制的に充当する条項。DSCR水準により3段階に分類される。①DSCR≧1.30:配当可能、②1.20≦DSCR<1.30:配当の50%を繰上返済、③DSCR<1.20:配当全額を繰上返済。Cash Sweepにより、実質的な返済期間が短縮される(例:契約上18年→実績10年)。貸付人の信用リスク軽減策として機能する。 | 配当・CF |
| CF | キャッシュフロー計算書 | Cash Flow Statementの略。営業CF、投資CF、財務CFの3区分により、現金の増減を示す財務諸表。理論上、BSの年度変化から導出されるため参考扱いだが、実務では配当可能額判定の基礎となるため中核シートとして扱われる。財務CFの最終行が配当可能額となり、これがDSCR制約と利益剰余金(PL)の両面から判定される。 | 配当・CF |
| Change of Control | 支配権変更 | スポンサーの株式保有比率が変動し、SPVの支配権が移転すること。融資契約のNon-Financial Covenantsにより、Change of Controlには貸付人の事前承認が必要とされる。承認なしの支配権変更はEvent of Default(期限の利益喪失事由)を構成し、貸付人は融資の即時回収権を取得する。スポンサーの信用力が融資条件の前提であるため、支配権変更は貸付人の重大な関心事項となる。 | 契約・組織 |
| Completion Guarantee | 完工保証 | スポンサーが、プロジェクトの建設完了(Commercial Operation Date達成)を保証する契約。建設期の資金不足、技術的困難、Force Majeure等により建設が遅延・中断した場合、スポンサーが追加資金を提供し完工させる義務を負う。新技術プロジェクト(水素・アンモニア発電等)では、Completion Guaranteeが融資条件となる。 | リスク・準備金 |
| Concessionaire | コンセッショネア | コンセッション契約においてプロジェクト実施権を付与された事業者(SPV)。有料道路、空港、港湾等のインフラプロジェクトでは、政府がConcessionaireに対して一定期間(25-40年)の事業運営権と料金徴収権を付与する。コンセッション満了時には、プロジェクト資産を政府へ無償譲渡する条件が一般的である。 | 契約・組織 |
| Conservative Case | 保守的ケース | 財務モデルにおいて、不利な前提条件を用いたシナリオ。需要予測ではP90(90%確率で達成)、建設費・OPEXは見積の+10-20%、金利は市場水準+1-2%を使用する。貸付人は、Conservative CaseでもDSCR≧1.20を維持することを融資条件とする。太陽光発電では、P90発電量予測と10年後のパネル出力90%低下を前提とする。 | 投資評価 |
| Cost Overrun | 建設費超過 | 建設費が当初見積を上回ること。Cost Overrunの主要因は、設計変更、資材価格高騰、労務費上昇、工期遅延等である。融資契約では、Cost Overrun Reserve(建設費予備費)を総投資額の5-10%設定し、超過分はスポンサーが追加出資する。Cost Overrunが予備費を超える場合、融資比率が低下し、Equity IRRが悪化する。 | リスク・準備金 |
| Covenant | 誓約条項 | 融資契約において、借入人(SPV)が遵守すべき条件を定めた条項。Financial Covenants(財務誓約:DSCR基準、LLCR基準、Debt/Equity比率上限)とNon-Financial Covenants(非財務誓約:追加借入禁止、資産売却制限、配当制約、Change of Control事前承認)に分類される。Covenant違反はEvent of Defaultを構成し、貸付人は融資の即時回収権を取得する。 | 融資条件 |
| DAB | 紛争裁定委員会 | Dispute Adjudication Boardの略。FIDIC契約に組み込まれた紛争解決機関。建設期の紛争(設計変更、工期遅延、追加費用等)を迅速に裁定する。DABの決定は暫定的拘束力を持ち、当事者はDAB決定に従い工事を継続する。最終的な紛争解決は仲裁または訴訟による。 | 契約・組織 |
| Debt Schedule | 債務返済スケジュールシート | 財務モデルにおいて、各期の債務残高、元本返済額、支払利息、DSCR、Cash Sweepを計算するワークシート。元本返済は、定額返済(Equal Principal Repayment)またはDSCR目標型返済(Sculpted Repayment)の2方式がある。Debt Scheduleシートの計算結果は、CFシートとBSシートに反映される。 | 配当・CF |
| Debt Service | 債務返済額 | 各期の元本返済額と支払利息の合計。年間Debt Serviceが年間CAFDSを上回る状態(DSCR<1.0)は、デフォルト状態を意味する。DSCRは、CAFDS / Debt Serviceで計算され、貸付人の信用リスク評価の中核指標となる。 | 融資条件 |
| Debt/Equity Ratio | 負債資本比率 | 融資額(Debt)を出資額(Equity)で除した比率。プロジェクトファイナンスでは、Debt/Equity = 70/30(融資比率70%)が標準的である。高リスクプロジェクト(市場型エネルギー、資源開発)では60/40または50/50となる。Debt/Equity比率が高いほど、Tax Shieldによる節税効果が大きく、Equity IRRがProject IRRを上回る。 | 融資条件 |
| Default | デフォルト | 債務不履行。Debt Service(元利金支払)が期日に履行されない状態。DSCRが1.0を下回る場合、または、融資契約のCovenant違反が発生した場合、Event of Default(期限の利益喪失事由)が成立し、貸付人は融資の即時全額回収権を取得する。実務では、Defaultが発生する前に、スポンサーによる追加出資やWaiver(違反免除)交渉により回避される。 | 融資条件 |
| Depreciation | 減価償却 | 固定資産の取得原価を耐用年数にわたって費用配分する会計処理。プロジェクトファイナンスでは、定額法が一般的である。減価償却費は非現金費用(Non-cash Expense)であり、キャッシュフローには影響しないが、課税所得を減少させる効果を持つ。EBITDAは減価償却費控除前の利益であり、現金創出力の代理指標として使用される。 | 投資評価 |
| Direct Agreement | 直接契約 | 貸付人が、SPVの主要契約相手(Offtaker、EPC業者、O&M業者等)と直接締結する契約。SPVがDefaultした場合、貸付人が主要契約を引き継ぎ、プロジェクトを継続運営する権利(Step-in Right)を確保する。Direct Agreementにより、貸付人はプロジェクトの継続性を担保し、回収可能性を高める。 | 契約・組織 |
| Distributions | 配当シート | 財務モデルにおいて、配当可能額を計算するワークシート。配当可能額は、MIN(利益剰余金、ウォーターフォール後の現金残額、DSCR制約による上限額)で決定される。Distributionsシートの出力は、CFシートの財務CFセクションとEquity IRR計算の入力となる。 | 配当・CF |
| DSCR | デットサービスカバレッジレシオ | Debt Service Coverage Ratioの略。CAFDS(債務返済後キャッシュフロー)を年間元利金支払額で除した比率。プロジェクトの債務返済能力を測定する最重要指標。計算式:DSCR = CAFDS / (元本返済額 + 支払利息)。業種別最低基準:有料道路1.15-1.20、発電所1.20-1.25、LNG基地1.25-1.30、石油・ガス開発1.30-1.50。DSCR<1.20で配当全面禁止(Lock-up)、DSCR<1.25でCash Sweep発動が標準的な契約条件。Min DSCR(最低DSCR)が融資承認の判断基準となる。 | 配当・CF |
| DSRA | 債務返済準備金口座 | Debt Service Reserve Accountの略。債務返済に充当する準備金を積み立てる専用口座。通常、6ヶ月分または12ヶ月分の元利金支払額を積立目標とする。DSRAは、収入減少時の債務返済を保証し、貸付人の信用リスクを軽減する。DSRAの積立不足は配当禁止事由となる。新興国プロジェクトでは12ヶ月分が要求される。 | リスク・準備金 |
| EBITDA | 利払・税引・償却前利益 | Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortizationの略。営業利益に減価償却費を加算した利益指標。EBITDAは非現金費用(減価償却費)を除外するため、現金創出力の代理指標として使用される。ただし厳密にはP/L(損益計算書)の利益指標であり、キャッシュフローではない。定常運転期の前提(CapEx≒減価償却費、ΔNWC≒0)の下では、EBITDA ≈ CAFDSが成立する。世界銀行PPPガイド(2017)、Moody’s格付方法論(2022)で業界慣行として認知されている。 | 投資評価 |
| ECA | 輸出信用機関 | Export Credit Agencyの略。自国企業の輸出を支援するため、輸出金融や政治リスク保証を提供する政府系機関。代表例:日本貿易保険(NEXI)、米国輸出入銀行(US EXIM)、英国輸出金融公社(UKEF)。ECA関与により、融資条件が緩和され(融資比率+5-10%、金利-0.5-1.0%、返済期間+3年)、政治リスクが軽減される。 | 契約・組織 |
| EPC Contract | 設計・調達・建設一括契約 | Engineering, Procurement and Constructionの略。EPC業者が、設計、資機材調達、建設、試運転のすべてを一括で請け負う契約。Fixed Price Lump Sum(固定価格一括払)が一般的であり、建設費リスクはEPC業者が負担する。EPC業者は、Liquidated Damages(遅延損害金)とPerformance Guarantee(性能保証)の責任を負う。 | 契約・組織 |
| Equity | 出資、株主資本 | スポンサーがSPVに出資する資本。総投資額からDebt(融資額)を控除した残額。Debt/Equity = 70/30の場合、Equity比率は30%。Equityは劣後資本であり、配当を受ける権利を持つが、プロジェクトが失敗した場合の損失リスクを負う。Equity IRRは、Equity出資額に対するIRRであり、資本家の投資判断基準となる。 | 投資評価 |
| Equity IRR | 株主資本IRR | 株主(スポンサー)の出資額(Equity)に対する内部収益率。出資時点をマイナスキャッシュフロー、配当受取をプラスキャッシュフローとして計算。Project IRRより3-5%高くなるのが一般的で、差異の主要因はTax Shield(支払利息の税控除効果)である。資本家の投資判断基準として、資本コスト(通常8-12%)を上回ることが必要。Equity IRR = 資本コスト + リスクプレミアム。高リスクプロジェクトでは15-20%が要求される。 | 投資評価 |
| Event of Default | 期限の利益喪失事由 | 融資契約において、貸付人が融資の即時全額回収権を取得する事由。主要なEvent of Default:①元利金支払の不履行、②Covenant違反(DSCR基準未達、追加借入等)、③虚偽の表明保証、④Change of Control無断実行、⑤破産申立。Event of Defaultが発生した場合、貸付人はSPVの資産を差し押さえ、プロジェクトを売却する権利を持つ。 | 融資条件 |
| FCFF | フリーキャッシュフロー(全体) | Free Cash Flow to Firmの略。企業全体(債権者+株主)に帰属するキャッシュフロー。FCFF = EBIT×(1-Tc) + 減価償却費 – CapEx – ΔNWC。FCFFは、WACCで割り引いて企業価値(EV)を算出する際に使用される。プロジェクトファイナンスでは、FCFFよりCAFDSが実務的に重視される。 | 投資評価 |
| FIDIC | 国際コンサルティング・エンジニア連盟 | Fédération Internationale Des Ingénieurs-Conseils(フランス語)の略。建設契約の標準書式を公表する国際団体。主要契約書:Red Book(伝統的建設、発注者設計)、Yellow Book(設計施工一括)、Silver Book(EPCターンキー)。MDBs(世界銀行、ADB等)が関与する公共インフラ案件では、FIDIC契約の使用が融資条件とされる。FIDIC契約はリスク配分がバランス型(発注者・請負者イーブン)である。 | 契約・組織 |
| Financial Close | ファイナンシャルクローズ | 融資契約、出資契約、主要プロジェクト契約(PPA、EPC、O&M等)のすべてが締結され、融資実行の条件が整った時点。Financial Close後、建設が開始される。Financial Close達成には、通常、入札から1-2年を要する。Financial Close時点で合意されたBase Caseモデルが、以後の契約管理の基準となる。 | 契約・組織 |
| Financial Covenants | 財務誓約条項 | 融資契約において、借入人(SPV)が遵守すべき財務比率を定めた条項。主要なFinancial Covenants:DSCR基準(例:DSCR≧1.20)、LLCR基準(例:LLCR≧1.30)、Debt/Equity比率上限(例:70/30以下)。Financial Covenants違反はEvent of Defaultを構成する。貸付人は四半期ごとに財務諸表を監視し、Covenant遵守状況を確認する。 | 融資条件 |
| Force Majeure | 不可抗力 | 当事者の合理的な支配を超える事象により、契約義務の履行が不可能となること。典型例:戦争、内乱、地震、洪水、ストライキ。Force Majeure発生時、契約当事者は履行義務を免除されるが、損害賠償責任も免除される。プロジェクトファイナンスでは、Force Majeure保険やForce Majeure Reserve(準備金)により、リスクを軽減する。 | リスク・準備金 |
| Grace Period | 据置期間 | 建設期中に元本返済を猶予する期間。利息のみ支払う(Pay-as-you-go)または利息も資本化する(Capitalized Interest)方式がある。Repayment Period(元本返済期間)には含まれない。例:融資実行2024年、Grace Period 3年、Repayment Period 18年の場合、元本返済は2027-2044年。Grace Periodが長いほど、建設期の資金繰りが安定するが、総支払利息が増加する。 | 融資条件 |
| Hedging | ヘッジング | 為替リスク、金利リスク、商品価格リスクを金融デリバティブ(通貨スワップ、金利スワップ、先物契約等)により軽減すること。新興国プロジェクトでは、現地通貨建てPPA収入と米ドル建て債務の通貨ミスマッチをHedgingにより解消する。資源開発プロジェクトでは、原油価格や銅価格のHedgingが融資条件となる。Hedging費用は配当可能額から控除される。 | リスク・準備金 |
| ICC | 国際商業会議所 | International Chamber of Commerceの略。ICC仲裁は、国際プロジェクトにおける紛争解決手段として広く使用される。仲裁地はパリが多いが、ロンドン、シンガポール等の中立地も選択可能。ICC仲裁判断はNew York Convention(1958年)により160カ国以上で執行可能。 | 契約・組織 |
| IE | 独立技術専門家 | Independent Engineerの略。大型プロジェクト(投資額5億ドル以上)において、貸付人が任命する第三者技術専門家。IEは、需要予測、建設費見積、建設スケジュール、O&M体制、技術仕様の妥当性を検証する。IEのFinal Report承認なしに、Financial Closeは成立しない。検証費用は総投資額の0.1-0.3%(5億ドルプロジェクトで50-150万ドル)。 | 契約・組織 |
| Indexation | 物価連動条項 | PPA契約において、電力料金を物価指数(CPI等)または為替レートに連動させて改定する条項。新興国プロジェクトでは、現地通貨建てPPA収入と米ドル建て債務の通貨ミスマッチを軽減するため、Indexation条項が重要となる。Indexation条項がない場合、現地通貨が20%下落するとDSCRが基準未達となるリスクがある。 | 契約・組織 |
| IRR | 内部収益率 | Internal Rate of Returnの略。投資のNPV(正味現在価値)をゼロにする割引率。プロジェクトファイナンスでは、Project IRRとEquity IRRの2種類が使用される。IRR計算では、初期投資をマイナスキャッシュフロー、以後の収入をプラスキャッシュフローとして、NPV = 0となる割引率を求める。IRRが資本コストを上回る場合、投資は経済的に妥当と判断される。 | 投資評価 |
| ISDA | 国際スワップ・デリバティブ協会 | International Swaps and Derivatives Associationの略。金利スワップ、通貨スワップ等のデリバティブ取引の標準契約書(ISDA Master Agreement)を公表する業界団体。プロジェクトファイナンスでは、金利リスクや為替リスクのHedgingにISDA契約が使用される。 | 契約・組織 |
| LCIA | ロンドン国際仲裁裁判所 | London Court of International Arbitrationの略。国際プロジェクトにおける紛争解決機関として、ICC仲裁と並んで広く使用される。仲裁地はロンドンが標準。LCIA仲裁判断はNew York Conventionにより国際的に執行可能。 | 契約・組織 |
| LCOE | 均等化発電原価 | Levelized Cost of Electricityの略。発電プロジェクトの全期間にわたる総費用を総発電量で除した単位あたり発電コスト。計算式:LCOE = Σ(減価償却費 + 維持管理費)/(1+r)^t ÷ Σ(発電量)/(1+r)^t。日本の太陽光発電(PPA)のLCOEは約80ドル/MWh、海外(中東・米国・豪州)は30-45ドル/MWhである。LCOE差異の主要因はCAPEX差と設備利用率差。 | 投資評価 |
| Liquidated Damages | 遅延損害金 | EPC契約において、Commercial Operation Dateが契約期日より遅延した場合に、EPC業者がスポンサーに支払う損害賠償金。通常、遅延1日あたり契約金額の0.05-0.10%と設定される。Liquidated Damagesは、遅延による逸失利益(Lost Revenue)を補填し、Equity IRRの悪化を抑制する。上限額(Cap)は契約金額の10-20%が一般的。 | 契約・組織 |
| LLCR | ローンライフカバレッジレシオ | Loan Life Coverage Ratioの略。融資期間全体の将来CAFDS現在価値を、現時点の債務残高で除した比率。LLCR = Σ(将来CAFDS)/(1+r)^t ÷ 現在債務残高。LLCRは、融資期間全体の返済余力を測定する。業種別最低基準:有料道路1.30-1.40、発電所1.40-1.50。LLCR<1.30で配当禁止、Cash Sweep発動が標準的な契約条件。DSCRが単年度指標であるのに対し、LLCRは複数年度指標である。 | 配当・CF |
| LMA | ローン・マーケット・アソシエーション | Loan Market Associationの略。欧州のシンジケートローン市場の業界団体。LMAは、融資契約の標準文書(Investment Grade Agreement、Leveraged Finance Documentation)を公表し、融資契約の交渉期間を短縮する。LMA文書は、Financial Covenants、Events of Default、Representations and Warrantiesの標準条項を定式化している。欧州のプロジェクトファイナンス市場では、LMA文書をベースに個別修正を加える実務が確立している。 | 契約・組織 |
| Lock-up | 配当全面禁止 | DSCRが最低基準(通常1.20)を下回った場合、配当を全面的に禁止する条項。Lock-up期間中、配当予定額はすべて準備金に積み立てられる。DSCRが基準を回復した時点で、Lock-upは解除され、積立金が配当として支払われる。Lock-upは、貸付人の信用リスクを軽減し、債務返済を優先する仕組みである。 | 配当・CF |
| Major Maintenance Reserve | 大規模修繕準備金 | 発電設備の大規模修繕(オーバーホール、タービン交換等)に充当する準備金。発電所プロジェクトでは、10年目と20年目に大規模修繕が必要となるため、年間EBITDAの2-5%を積み立てる。Major Maintenance Reserveの積立不足は配当禁止事由となる。市場型エネルギー(Merchant発電所)では、積立率が高くなる(5-10%)。 | リスク・準備金 |
| MDB | 国際開発金融機関 | Multilateral Development Bankの略。複数国が出資する国際金融機関。代表例:世界銀行グループ(IFC、MIGA)、アジア開発銀行(ADB)、アフリカ開発銀行(AfDB)。MDBsは、途上国のインフラプロジェクトに長期融資(20-25年)、政治リスク保証、技術支援を提供する。MDBs関与により、融資条件が緩和され(融資比率+5-10%、金利-0.5-1.0%、返済期間+3年)、カントリーリスクが軽減される。 | 契約・組織 |
| Merchant Power Plant | 市場型発電所 | PPAを持たず、卸電力市場(Spot Market)で売電する発電所。収入が市場価格に完全依存するため、融資条件は著しく厳格化する。DSCR基準1.35-1.50、融資比率50-60%、元本返済期間12-15年。配当制約では、DSCR基準に加えて、Major Maintenance ReserveとWorking Capital Reserveの積増が要求される。貸付人は、過去5年間の市場価格標準偏差を基に、P10価格シナリオでもDSCR>1.20を維持することを求める。 | 契約・組織 |
| MIGA | 多数国間投資保証機関 | Multilateral Investment Guarantee Agencyの略。世界銀行グループの政治リスク保証機関。MIGAは、接収(Expropriation)、戦争・内乱、通貨交換制限、契約違反(Breach of Contract)の4大リスクをカバーする政治リスク保険(PRI)を提供する。MIGA保証付きプロジェクトでは、ホスト国政府がMIGAに対する債務不履行を回避するインセンティブが働くため、事実上のソブリン保証として機能する。 | 契約・組織 |
| Model Auditor | 財務モデル監査人 | 大型プロジェクト(投資額5億ドル以上)において、貸付人が任命する第三者専門家。Model Auditorは、財務モデルの計算ロジック、マクロ・VBAコード、Tax計算の税法整合性、Debt ScheduleのCash Sweepロジック、感度分析の妥当性、前提条件の出典文書整合性を検証する。Model AuditorのSign-off(承認書)なしに、Financial Closeは成立しない。 | 契約・組織 |
| NEXI | 日本貿易保険 | Nippon Export and Investment Insuranceの略。日本の輸出信用機関(ECA)。日本企業が関与する海外プロジェクトに対して、政治リスク保証、輸出金融を提供する。NEXI関与により、日本の商業銀行の融資条件が緩和される。 | 契約・組織 |
| Non-Financial Covenants | 非財務誓約条項 | 融資契約において、借入人(SPV)が遵守すべき非財務的条件を定めた条項。主要なNon-Financial Covenants:追加借入禁止、資産売却制限、配当制約、Change of Control(支配権変更)事前承認、保険加入義務、環境規制遵守。Non-Financial Covenants違反もEvent of Defaultを構成する。 | 融資条件 |
| NPV | 正味現在価値 | Net Present Valueの略。将来キャッシュフローを割引率で現在価値に割り引き、初期投資を控除した値。NPV = Σ(CF_t)/(1+r)^t – 初期投資。NPV>0の場合、投資は経済的に妥当と判断される。プロジェクトファイナンスでは、NPVよりIRRが実務的に重視される。 | 投資評価 |
| O&M | 運営保守 | Operations and Maintenanceの略。プロジェクトの運営(運転、監視、管理)と保守(点検、修理、部品交換)を行う業務。O&M契約では、O&M業者がAvailability Guarantee(稼働率保証)を提供する。O&M費用はOPEXの主要部分を占める。発電所では、O&M費用が売電収入の2-5%(再エネ)または15-25%(火力)となる。 | 契約・組織 |
| Offtaker | 電力購入者 | PPA(電力購入契約)において、発電所からの電力を購入する事業者。典型的なOfftaker:電力公社、大手電力会社、大口需要家。Offtakerの信用力がプロジェクトの収入安定性を決定するため、融資条件に直接影響する。Offtakerの格付がBBB以下の場合、DSCRが下がり、融資比率が低下する。 | 契約・組織 |
| OPEX | 運営費 | Operating Expenditureの略。プロジェクトの運営期に発生する費用。O&M費用、保険料、固定資産税、土地リース料、人件費を含む。太陽光発電のOPEXは売電収入の2-3%、ガス火力発電のOPEXは30-40%(燃料費含む)。OPEXの予測誤差は、Project IRRとEquity IRRに大きく影響する。感度分析では、OPEX±10%の変動を検証する。 | 投資評価 |
| P10/P50/P90 | 確率水準 | P10:10%確率で達成される楽観的ケース(Optimistic Case)。P50:50%確率で達成される標準ケース(Base Case)。P90:90%確率で達成される保守的ケース(Conservative Case)。需要予測、発電量予測で使用される。貸付人はP90ケースで最低DSCR基準を満たすことを融資条件とする。 | 投資評価 |
| Payback Period | 投資回収期間 | 初期投資を回収するまでの期間。累積キャッシュフローが初期投資を上回る時点で計算される。市場型エネルギー(Merchant発電所)と資源開発プロジェクトでは、収入の不確実性が高いため、IRRよりPayback Periodが重視される。貸付人は、Base CaseシナリオでPayback Periodが元本返済期間の70%以内(例:返済12年なら回収8年以内)であることを融資条件とする。 | 投資評価 |
| Performance Guarantee | 性能保証 | EPC契約において、EPC業者がプロジェクト設備の性能(発電容量、熱効率等)を保証すること。Commercial Operation Date達成時に、保証性能を下回る場合、EPC業者は性能不足分をLiquidated Damagesとして支払う。新技術プロジェクト(水素・アンモニア発電等)では、Performance Guaranteeが融資条件となる。 | 契約・組織 |
| P/L | 損益計算書 | Profit and Loss Statementの略。各期の収入、費用、利益を示す財務諸表。P/LとBS(貸借対照表)はMandatory(必須)であり、CF(キャッシュフロー計算書)は参考扱いとなる。P/Lの純利益が累積した利益剰余金(Retained Earnings)が、配当の法的源泉となる。配当可能額は、MIN(利益剰余金、ウォーターフォール後の現金残額、DSCR制約)で決定される。 | 配当・CF |
| PPA | 電力購入契約 | Power Purchase Agreementの略。発電所とOfftaker(電力購入者)の間で締結される長期電力売買契約。PPAは、固定容量料金(Capacity Payment)と変動エネルギー料金(Energy Payment)で構成される。多くのPPAはTake-or-Pay条項を含み、発電所が利用可能である限り、実際の発電量に関わらず容量料金が支払われる。PPA期間は20-25年が標準的。 | 契約・組織 |
| Preferred Creditor Status | 優先債権者地位 | MDBs(世界銀行、ADB等)が、ホスト国政府からの債務返済において優先的地位を持つこと。ホスト国政府は、MDBsへの債務不履行を回避するインセンティブが強いため、MDBs関与プロジェクトはカントリーリスクが大幅に軽減される。商業銀行は、MDBsと協調融資することで、事実上のPreferred Creditor Statusを享受できる。 | 契約・組織 |
| PRI | 政治リスク保険 | Political Risk Insuranceの略。接収(Expropriation)、戦争・内乱、通貨交換制限、契約違反(Breach of Contract)の4大政治リスクをカバーする保険。MIGAやECAsが提供する。PRI付きプロジェクトでは、カントリーリスクが軽減され、融資条件が緩和される(融資比率+5-10%、金利-0.5-1.0%)。 | リスク・準備金 |
| Project IRR | プロジェクトIRR | プロジェクト全体(債権者+株主)の初期投資に対する内部収益率。Definition 1(清算価値を含まない)、Definition 2(清算価値を含む)、Definition 3(債務返済完了までの期間で計算)、Definition 4(SPV売却価格ベース)の4つの定義が併存し、同一プロジェクトでも3%以上の差異が生じる。業種により標準的な定義が異なる。契約型インフラ(有料道路):Definition 1、契約型エネルギー(PPA発電所):Definition 4。 | 投資評価 |
| Red Book | FIDIC伝統的建設契約書 | FIDICが公表する建設契約の標準書式。発注者が設計を提供し、請負者が施工を行う伝統的建設プロジェクト向け。リスク配分はバランス型(発注者・請負者イーブン)。MDBs案件で広く使用される。支払は出来高払(Measurement Contract)。 | 契約・組織 |
| Repayment Period | 元本返済期間 | 融資の元本を返済する期間。Grace Period(据置期間)は含まれない。例:融資実行2024年、Grace Period 3年、Repayment Period 18年の場合、元本返済は2027-2044年。日本のPPA型太陽光発電ではRepayment Period 15-17年、海外では18-22年が標準的。Repayment Periodが長いほど、年間元本返済額が減少し、DSCRが改善し、配当余力が拡大する。 | 融資条件 |
| Representations and Warranties | 表明保証 | 融資契約において、借入人(SPV)が貸付人に対して行う事実の表明と保証。典型例:①財務諸表の正確性、②訴訟不存在、③許認可取得完了、④環境規制遵守。表明保証に虚偽があった場合、Event of Defaultを構成する。 | 融資条件 |
| Residual Value | 残存価値 | プロジェクト終了時点のSPVまたはプロジェクト資産の価値。有料道路等のコンセッション案件では、資産が政府へ無償譲渡されるため残存価値はゼロ。PPA型発電所では、融資完済後にスポンサーへ売却される場合があり、売却価格が残存価値となる。残存価値の有無により、Project IRRが3%以上変動する。 | 投資評価 |
| Restricted Cash | 制限付現金 | SPVが自由に使用できない現金。DSRA(債務返済準備金)、Major Maintenance Reserve(大規模修繕準備金)、Working Capital Reserve(運転資金準備金)等の専用口座に積み立てられた現金。Restricted Cashは配当原資とならない。BSシートで現金残高の内訳として表示される。 | リスク・準備金 |
| Retained Earnings | 利益剰余金 | P/L(損益計算書)の純利益が累積した金額。会社法上、配当の法的源泉となる。建設期や運営初期は累積赤字(Accumulated Deficit)により利益剰余金が負となり、配当不可能である。配当可能額は、MIN(利益剰余金、ウォーターフォール後の現金残額、DSCR制約)で決定される。 | 配当・CF |
| Returns | 収益率シート | 財務モデルにおいて、Equity IRR、Project IRR、NPVを計算するワークシート。Equity IRRは、Equity出資額と配当受取額からIRRを計算する。Project IRRは、総投資額と全期間キャッシュフロー(CAFDS + 残存価値)からIRRを計算する。Returnsシートは、投資判断の最終的な意思決定指標を提供する。 | 投資評価 |
| Revenue | 収入シート | 財務モデルにおいて、各期の収入を計算するワークシート。PPA型発電所では、容量料金(Capacity Payment)と変動料金(Energy Payment)を計算する。有料道路では、交通量(Traffic)×通行料を計算する。Revenueシートの出力は、P/LシートとCFシートに反映される。 | 配当・CF |
| Sculpted Repayment | DSCR目標型返済 | 元本返済スケジュールを、目標DSCR(例:1.30)を維持するように調整する返済方式。収入が増加する期間は元本返済額を増やし、収入が減少する期間は元本返済額を減らす。Sculpted Repaymentにより、DSCRが平準化され、配当可能額が最大化される。Equal Principal Repayment(定額返済)と対比される。 | 融資条件 |
| Sensitivity Analysis | 感度分析 | 財務モデルにおいて、単一変数(需要、価格、OPEX、金利等)の変動が指標(Equity IRR、DSCR等)に与える影響を定量化する分析。実務上の重要な原則:OPEX変動と収入変動が、CAPEX変動より資本家に大きな影響を与える。理由は、OPEXと収入が運営期全体(20-25年)にわたって累積的に影響するのに対し、CAPEXは建設期(2-5年)の一時的支出だからである。感度分析では、OPEX・収入に対して±10%以上、CAPEXに対して±20-30%の変動幅を検証する。 | 投資評価 |
| Severe Stress | 極端ストレスシナリオ | 財務モデルにおいて、複数の不利な要因が同時に発生する極端なシナリオ。例:需要-10%、価格-5%、OPEX+10%、建設費+10%が同時発生。Severe StressでEquity IRRが資本コストを大きく下回り、DSCRが1.0未満となる場合でも、その発生確率が5%以下であれば融資は承認される。貸付人は、Severe Stressが過去最悪ケース(リーマンショック、コロナ等)と同等以上に厳しいことを要求する。 | 投資評価 |
| Shareholders’ Agreement | 株主間契約 | スポンサー間で、SPVの経営、配当比率、株式譲渡制限、追加出資義務等を定めた契約。複数スポンサーが出資する場合、出資比率と配当比率が一致しない場合がある(例:技術スポンサー30%出資で配当40%)。Shareholders’ Agreementにより、スポンサー間の利害調整が行われる。 | 契約・組織 |
| SIAC | シンガポール国際仲裁センター | Singapore International Arbitration Centreの略。アジアの国際プロジェクトにおける紛争解決機関として広く使用される。仲裁地はシンガポール。SIAC仲裁判断はNew York Conventionにより国際的に執行可能。 | 契約・組織 |
| Silver Book | FIDIC EPCターンキー契約書 | FIDICが公表するEPCターンキープロジェクト向けの標準契約書。請負者が設計・調達・建設のすべてを担当し、完成後に発注者へ引き渡す。リスク配分は発注者有利(請負者が大部分のリスクを負担)。Fixed Price Lump Sum(固定価格一括払)が標準。商業プロジェクトで使用されるが、発注者はBespoke契約を好む傾向がある。 | 契約・組織 |
| SPV | 特別目的会社 | Special Purpose Vehicleの略。プロジェクト実施のみを目的として設立される法人。スポンサーの他事業とリスクを隔離(リングフェンス)し、プロジェクト資産・収入のみを担保とする非遡及型融資(Non-recourse Finance)を可能にする。SPVの配当はウォーターフォール後の現金残額のみ可能であり、DSCR制約と利益剰余金制約の両面から判定される。 | 契約・組織 |
| Step-in Right | 介入権 | 貸付人が、SPVのDefaultまたはEvent of Default発生時に、主要契約(PPA、EPC、O&M等)を引き継ぎ、プロジェクトを継続運営する権利。Direct Agreementにより確保される。Step-in Rightにより、貸付人はプロジェクトを第三者に売却し、融資回収を図ることができる。 | 契約・組織 |
| Take-or-Pay | 引取または支払条項 | PPA契約において、Offtaker(電力購入者)が、実際に電力を引き取るか否かに関わらず、発電所が利用可能である限り容量料金(Capacity Payment)を支払う義務を負う条項。Take-or-Pay条項により、発電所の収入リスクが大幅に軽減され、融資条件が緩和される(DSCR基準1.20-1.25、融資比率70-75%)。 | 契約・組織 |
| Tax | 税金シート | 財務モデルにおいて、各期の税額を計算するワークシート。法人税、付加価値税、源泉税を計算する。繰越欠損金(Tax Loss Carryforward)とTax Holiday(税制優遇)を考慮する。Tax Shieldの現在価値を正確に計算するため、繰越欠損金の消化時期を正確に反映する必要がある。Taxシートの出力は、P/LシートとCFシートに反映される。 | 配当・CF |
| Tax Holiday | 税制優遇 | 新興国政府が、外国投資を誘致するため、プロジェクト初期の一定期間(通常5-10年)の法人税を免除または軽減する制度。Tax Holidayにより、運営初期のキャッシュフローが改善し、Equity IRRが向上する。ただし、Tax Holiday期間中はTax Shield(支払利息の税控除効果)も実現しないため、IRR向上効果は限定的となる。 | 融資条件 |
| Tax Shield | タックスシールド | 支払利息の税控除により、企業が実質的に負担する利息コストが名目金利より低減される効果。Tax Shield = 支払利息 × 法人税率(Rd × Tc)。プロジェクトファイナンスでは融資比率が70-80%に達するため、Tax Shieldの効果は極めて大きい。例:融資7,000万ドル、金利7%、法人税率25%の場合、年間Tax Shieldは122.5万ドル、20年間の現在価値(割引率7%)は1,300万ドル。この効果により、Equity IRRはProject IRRを3-5%上回る。 | 投資評価 |
| Technology Reserve | 技術リスク準備金 | 再生可能エネルギープロジェクト(太陽光、風力)において、パネル交換費用、インバーター更新費用、風車故障修理費用に充当する準備金。太陽光発電では、パネル出力が10年後に初期値の90%に低下することを前提とし、年間EBITDAの2-3%を積み立てる。Technology Reserveの積立不足は配当禁止事由となる。 | リスク・準備金 |
| Traffic Study | 交通量調査 | 有料道路プロジェクトにおいて、将来交通量を予測する専門調査。P10(楽観)、P50(標準)、P90(保守)の3シナリオで予測される。貸付人はP90ケースで最低DSCR基準を満たすことを融資条件とする。Traffic Studyの精度がプロジェクトの成否を左右するため、Independent Engineerが妥当性を検証する。 | 投資評価 |
| US EXIM | 米国輸出入銀行 | United States Export-Import Bankの略。米国の輸出信用機関(ECA)。米国企業が関与する海外プロジェクトに対して、輸出金融や政治リスク保証を提供する。US EXIM関与により、融資条件が緩和され、政治リスクが軽減される。 | 契約・組織 |
| WACC | 加重平均資本コスト | Weighted Average Cost of Capitalの略。Debt(負債)とEquity(株主資本)の加重平均による資本コスト。計算式:WACC = Rd×(1-Tc)×D/(D+E) + Re×E/(D+E)。Rdは負債コスト、Reは株主資本コスト、Tcは法人税率、D/Eは負債・資本比率。WACCは、FCFF(企業全体のキャッシュフロー)を割り引いて企業価値を算出する際の割引率として使用される。Tax Shieldにより、負債比率が高いほどWACCが低下する。 | 投資評価 |
| Waiver | 違反免除 | 融資契約のCovenant違反が発生した場合、貸付人がEvent of Default(期限の利益喪失)を発動せず、違反を免除すること。Waiverの条件として、スポンサーによる追加出資、DSCR改善計画の提出、配当禁止期間の延長等が要求される。Waiverにより、Defaultが回避され、プロジェクトが継続される。 | 融資条件 |
| Waterfall | ウォーターフォール | プロジェクトが生成した現金を、優先順位に従って配分する仕組み。優先順位1-3:営業CF・投資CFによるCAFDS生成。優先順位4:税金支払。優先順位5:元利金支払(Debt Service)。優先順位6:準備金積立(DSRA、Major Maintenance Reserve等)。優先順位7:Cash Sweep(繰上返済)。優先順位8:準備金取崩。優先順位9:配当(PL判定との比較後)。配当可能額は、ウォーターフォール後の現金残額とDSCR制約の両面から判定される。 | 配当・CF |
| Working Capital Reserve | 運転資金準備金 | 運転期の短期的な資金不足(売掛金回収遅延、燃料費先払い等)に対応する準備金。通常、月次OPEXの1-3ヶ月分を積み立てる。市場型エネルギー(Merchant発電所)では、市場価格変動により収入が不安定なため、6ヶ月分の積立が要求される。Working Capital Reserveの積立不足は配当禁止事由となる。 | リスク・準備金 |
| Yellow Book | FIDIC設計施工一括契約書 | FIDICが公表する設計施工一括プロジェクト向けの標準契約書。請負者が設計と施工の両方を担当する。リスク配分はバランス型。支払はLump Sum(一括払)が標準。MDBs案件で広く使用される。Red Book(発注者設計)とSilver Book(EPCターンキー)の中間的な位置づけ。 | 契約・組織 |

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