契約の概要
BPの標準LNG売買基本契約書(Master Agreement)は、国際LNG取引の基本的な権利義務関係を規定する包括的な契約文書です。本契約は、取引の安定性と運用の柔軟性のバランスを図りながら、具体的な数値基準と明確な手続規定を提供しています。
特に以下の3点において、高い完成度を持つ契約書となっています:
- 商業的な実行可能性を重視した実務的な基準設定
- 包括的なリスク管理と明確な責任分担の仕組み
- 国際取引としての法的安定性の確保
主要条項の体系
以下の表は、契約の主要条項とその実務的意義を整理したものです:
章 | 条項名 | 主要条件 | 実務的意義 |
---|---|---|---|
1 | 定義・基本構造 | • Adverse Weather基準(風速25ノット以上等) • 取引規模:50-100万MMBtu/カーゴ • 数量許容範囲:±5% | 取引の基本的枠組みと 客観的な運用基準の確立 |
2 | オペレーション | • P&I保険:10億米ドル • 船齢制限:20年以下 • 通知体制:7段階 | 安全で効率的な 運航体制の確保 |
3 | 荷役条件 | • 最大荷役レート:12,000m³/時 • Laytime:24-36時間 • 接続時間:各2時間 | 効率的な荷役オペレーションと 時間管理の実現 |
4 | 品質管理 | • メタン比率:85-98mol% • 総発熱量:1,040-1,170Btu/scf • 硫黄分:5mg/Nm³以下 | 商品価値の保証と 下流利用への適合性確保 |
5 | 数量計測 | • 液面計精度:±7.5mm • 温度計精度:±0.1℃ • 計算方法:ISO準拠 | 正確な数量確定による 公平な取引の実現 |
6 | 価格・支払 | • 支払期限:請求後10営業日 • 遅延金利:LIBOR+3% • 信用補完:120%カバー | 円滑な決済と 与信リスク管理の実現 |
7 | 不可抗力 | • 通知期限:24時間以内 • 代替措置:7日以内検討 • 調整期間:最長180日 | 予期せぬ事態への 体系的対応の確保 |
8 | 補償体系 | • Buyer Shortfall:Price×数量 • Seller Shortfall:Price×40%×数量 • 品質補償:Price×25-50% | 契約履行の確実性確保と 適切な損害分配 |
9 | 紛争解決 | • 協議期間:60日 • 仲裁:SIAC/LCIA • 専門家決定:30日 | 効率的な紛争解決と 専門性の確保 |
10 | コンプライアンス | • 贈収賄防止:FCPA/UK Bribery Act • 制裁対応:SDN確認 • 環境規制:IMO基準 | 法令遵守と 持続可能性の確保 |
11 | 契約管理 | • 変更手続:書面要件 • 運用調整:±5%まで • 通知期限:変更60日前 | 契約の安定性と 運用の柔軟性の両立 |
12 | 権利義務譲渡 | • 同意要件:事前書面同意 • グループ内:通知のみ • 金融譲渡:債権可能 | 取引の継続性確保と 商業的柔軟性の実現 |
13 | 守秘義務 | • 保管期間:契約後2年 • 開示制限:Need to know • 返却義務:契約終了時 | 商業機密の保護と 必要な情報共有の両立 |
14 | 緊急時対応 | • 対応体制:24時間体制 • 初期対応:2時間以内 • 費用分担:発生側負担 | 安全管理と リスク対応の確立 |
15 | 契約終了 | • 通常終了:90日前通知 • 早期終了:重大違反30日 • 清算期間:60日以内 | 秩序ある契約関係の 解消手続きの確保 |
16 | 補償・免責 | • 直接損害:120%上限 • 間接損害:原則除外 • 環境損害:別枠補償 | 合理的な損害分配と リスク管理の実現 |
17 | 報告管理 | • 運航報告:6時間毎 • 記録保存:7年間 • 監査権:年1回無償 | 取引の透明性確保と 説明責任の履行 |
18 | 一般条項 | • 通知方法:書面要件 • 権利放棄:個別書面 • 可分性:一部無効対応 | 法的安定性と 実務的柔軟性の確保 |
19 | 実務運用 | • 支払通貨:US Dollar • 連絡体制:24時間対応 • データ保護:暗号化必須 | 日常的な取引運営の 効率化と安定性確保 |
20 | 契約解釈 | • 商慣習考慮 • 英語正本 • INCOTERMS参照 | 解釈の明確化と 国際的整合性の確保 |
21 | 準拠法 | • 英国法準拠 • SIAC/LCIA仲裁 • 主権免除放棄 | 法的安定性と 執行可能性の確保 |
22 | 言語・通貨 | • 英語正文 • US Dollar決済 • SI単位系採用 | 国際取引標準との 整合性確保 |
主要な特徴
体系的な構造
- 論理的な条項配置
- 相互参照の明確性
- 包括的なカバレッジ
実務的な具体性
- 定量的基準の明示
- 時間軸の明確化
- 手続きの詳細化
リスク管理の徹底
- 多層的な保護措置
- 明確な責任分担
- 具体的な補償基準
このLNG売買基本契約書は、実務経験と法的知見を結集した現代の国際エネルギー取引の標準的な契約書として、高い実用性を備えています。特に、定量的な基準と定性的な判断基準をバランスよく組み合わせることで、実用的かつ安定的な取引の基盤を提供しています。
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